威風堂々

春から社会人

『若きウェルテルの悩み』

今日は真礼ちゃんのライブに来ています。物販が終わって開場まで暇なのでこの間読んだ『若きウェルテルの悩み』について書こうと思います。盛大なネタバレです。

この本はゲーテの実体験に基づいた小説です。 簡単に言えばウェルテルという男がロッテという女性に恋をして仲を深めていくが、ロッテにはアルベルトという婚約者がいて、叶わない恋の中で精神的に追い詰められたウェルテルが最終的に自殺するというストーリーです。これに感化されて当時のドイツでは自殺者が増えたとかいうくらいですごい影響を与えた作品です。

ウェルテルは好意を寄せていた幼馴染を早くに亡くして、それ以来恋をせずに生きてきたが、ある日ロッテと出会いすぐに恋に落ちてしまいます。

「天使、かな。ー陳腐だ、陳腐だ、誰だって好きなひとをみんなこういうからね。でもぼくには、そのひとがどんなに完全か、なぜ完全か話せはしないんだ。そうだ、ぼくはそのひとにもうがんとやられてしまったんだ。実に利口で実に純真、実にしっかりしていて実にいいひと、はつらつとしてまめでいて心は落ち着いているんだ。ー」

語彙力失ったオタクみたいだなと思ったんですがそれはさておき、完全にぞっこんです。ただウェルテルはこの時すでにロッテに婚約者がいることは知っていました。アルベルトの登場でそれを再認識するんですが、ウェルテルはロッテへの想いが募るばかりで、アルベルトとロッテとは友人として、微妙な関係のまま付き合いを続けます。ただウェルテルはこのままだといけないと思って、地方官の職を得て一度ロッテの元を去ります。しかし社会とうまく馴染めずに仕事を手放し、また戻ってきてしまいます。ここからウェルテルの精神は急速に崩壊していきます。 ところで仕事をしている際、ウェルテルはある公爵と出会う。公爵はウェルテルをとても買っているのだが、ウェルテルは耐えきれなくなってその下を離れてしまう。

「公爵はぼくの心よりも、ぼくの理知や才能のほうを高く評価しているんだが、このぼくの心こそはぼくの唯一の誇りなのであって、これこそいっさいの根源、すべての力、すべての幸福、それからすべての悲惨の根源なんだ。ぼくの知っていることなんか、誰にだって知ることのできるものなんだ。ーぼくの心、こいつはぼくだけが持っているものなのだ。」

…心に来ます。ウェルテルはとても優秀な人物です。ただ本人は優秀であることばかりが評価されるので納得がいかない。これは私も少し思うところがあります。考えさせられました。

さて、ロッテには再び会いに行ってからのウェルテルは完全に病んでいます。個人的には統合失調症的なものを感じます。

「ロッテはぼくと一緒だったほうがずっと幸福だったろうと思う。アルベルトは自殺にロッテの心の願いをすべて満たしてやれる人間じゃない、感受性にある欠陥がある。〔略〕むろんアルベルトは心底からロッテを愛しているさ。だからそれほどの愛ならどんな報いを受けたっていいんだ。」

「ぼくだけがロッテをこんなにも切実に心から愛していて、ロッテ以外のものを何も識らず、理解せず、所有してもいないのに、どうしてぼく以外の人間がロッテを愛しうるか、愛する権利があるか、ぼくには時々これがのみこめなくなる。」

「ロッテの幻がつきまとっていて離れない。夢にもうつつにもそれが心を占領している。」

やばい。

ウェルテルとアルベルト・ロッテ夫妻との関係はその後ある事件を契機に急速に壊れていきます。ウェルテルはロッテに拒絶され、最終的には自殺することとなるのです。その際ロッテに手紙を残します。

「アルベルトがあなたの夫だってことがなんです。夫、か。この世ではそうでしょうーこの世じゃぼくがあなたに恋し、アルベルトの腕からぼくの腕にあなたをもぎとろうというのは罪でしょうよ。罪だ?よろしい、ぼくは自分を罰してやる。ぼくは罪をたっぷりと心たのしく味わったのだ、この罪を。いのちの香油と力を心の中に吸い込んだのだ。そのときからあなたはぼくのものだ。ぼくのものなんだ。ロッテよ。先に行きます。」

ウェルテルは死に悲しみを感じていない。むしろ希望すら感じている。月並みですが愛に狂った男の末路は恐ろしいものです。 考察し尽くされた作品に私が何かを加えるのもおこがましいが、ウェルテルは自殺肯定派、アルベルトは自殺否定派だと作中で明言されています。最後ウェルテルは自殺する際、アルベルトのピストルを従僕に借りてこさせます。私には知識がかけているのでよく分からないのですが、ここでなぜウェルテルは自分のピストルを使わなかったんでしょうか。持っていなかったからならそれまでですが、ロッテの手に触れたものを使いたかったことに加えてやはりアルベルトへの当てつけもあっただろうと思います。ウェルテルは最後遺書に夫婦の幸せを願う旨を書いていますが、本当に心からそう思っていたとは個人的には思えません。それにしても内容はわかるのに難しい話でした…

ところでレポートのために同じくゲーテの『西東詩集』も読みました。こちらはヨーロッパ至上主義がまだ残る19世紀前半において、オリエント文芸の価値を全面的に認めたゲーテがそれに倣って書いた詩集ということでなかなか面白かったです。 ゲーテはやっぱり凄いですね。外国の文豪の作品はあまり読んでこなかったのですが、いろいろ読んでみたいと思いました。