威風堂々

春から社会人

『我が闘争』

 

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)

 
わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫)

わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫)

 

 

この本は受験が終わったら読みたいと思っていてやっと読んだ本だ。合計900ページくらい。ドイツでは戦後長らく発禁になっていて物議をかもしながらもおととし再出版されたそうです。読んでみたけれど確かにかなり過激なことが書いてあった。

この本は1920年代前半までのヒトラーの人生と第一次世界大戦前後のドイツ情勢について書いてあります。ヒトラーは1923年、国家社会主義革命を目指したミュンヘン一揆の首謀者として逮捕されます。その獄中でこの本の執筆は開始されました。

ヒトラーのよく知られた言葉に「宣伝」に関することがあるでしょう。(以降のページ番号は角川の平成13年の改版版に準拠します)

 

「宣伝は永久にただ大衆にのみ向けるべきである!」(上・236P)

「宣伝はすべて大衆的であるべきであり、その知的水準は、宣伝が目指すべきものの中で最低級のものがわかる程度に調整すべきである。」(上・237P)

「宣伝の学術的な余計なものが少なければ少ないほど、そしてそれがもっぱら大衆の感情をいっそう考慮すればするほど、効果はますます的確になる。しかもこれが、その宣伝が正しいか誤りであるかの最良の証左であり、二、三の学者や美学青年を満足させたかどうかではない」(上・237P)

「大衆の受容能力は非常に限られており、理解力は小さいが、そのかわりに忘却力は大きい。この事実からすべて効果的な宣伝は、重点をうんと制限して、そしてこれをスローガンのように利用し、そのことばによって、目的としたものが最後の一人にまで思いうかべることができるように継続的に行わなければならない。」(上・238P)

 

この本を読んでいるとわかるのだがこれは本の中ですでに実践されている。というのもユダヤ人やマルクス主義への批判が何度も何度もこれでもかというくらい各所に出てくるのだ。この本はナチスのバイブル的本だったそうで大いに宣伝に役立ったでしょうね。(ただこれは訳の問題なのか、読み流すだけでは正直何を言っているのかわからないところがあったので本当の「馬鹿な」大衆に向けて書かれていたのかは疑問だが。それっぽい印象を与えて扇動するという目的ならばこれで構わないか?)

 

さて、ユダヤ人関係はデリケートな問題ですし、大学のレポートに書きたい内容なので触れないとしてもう少し別のことについて書いていきます~

ヒトラーの何がすごいかって、超絶過激で飛躍した理論をうまくそれっぽく見せているところ、これが一番だと思うんですよ。現代ではヒトラーは絶対悪として扱われる。そうした先入観を持ったうえで読んでも確かにそうかもと納得してしまうところがある。危うく危険思想にのまれそうになるのだ。これは下巻の訳者解説に載っている話なのだが、ヒトラーの主張は正常で合理性があるとは言えないが首尾一貫性があるのだ。つまり全くぶれるところがない。自らが反ユダヤ主義に至った経緯を書いてそれ以降はユダヤ人を、マルクス主義を一度も微塵も評価することなく書き終えているのだ。これも効果的な宣伝だといえよう。

ヒトラードイツ帝国を滅ぼしたものとしてユダヤ人による共産主義、つまりマルクス主義を毛嫌いしていたが、ヒトラー自身は国家社会主義者というように社会主義者なのだ。共産主義社会主義は何が違うのかとはよくある疑問だが、少なくともヒトラーにおいては私有財産制は認められていたはずであり、ナチスの方が国民を富ませるという観点ではフォルクスワーゲンを作ったり、公共事業を行ったり、失業者対策を行ったりと、資本主義の中で管理された経済というのがいいんじゃないかと個人的には思います。実際ナチスは短期間というのもありますがかなり成功しているはずです。国民の意欲みたいなのに頼る共産主義とは別だったと思います。

ヒトラーの理想とする体制はまさに「全権委任」でした。ヒトラーはのちに党代表となって党内委員会を廃止します。ヒトラーにとってあるべき姿は一人が全責任を負い強力に理念を推し進めていく体制だったわけですね。ヒトラーは作中で繰り返し議会の腐敗や現代人の責任から逃れようとするあさましさについて批判しています。これはいまにも通じるところが割とありますね…

 

もう少し書きたいことはあるんですけど疲れてしまったし文章がまとまらないのでここらへんにしておきます。ヒトラーのすごいところは今にも通じるようなほど現実に立脚したところからだんだん自分の世界に人を引き込んでいくところだと思うんですよね。実際ミュンヘン一揆の時の裁判もヒトラーの演説会場と化したと言います。こうした差別思想に染まるのはだめですが批判的に読むのでも、読んでみると得るものがあるのではないかと思います。面白かったです。